7:30 出勤
カヤックはカートに乗せて浜まで運ぶ。通常はカヤックを運ぶこと(準備)もツアーの一環としているが、参加人数の多い時は時間短縮のため全て準備している。
出勤時間はスケジュールによるが、午前ツアーは8:30受付開始なので、だいたい1時間前に出勤。まずは予約状況と気象情報をチェック。一日の流れをシュミレーションしながら準備作業に取りかかる。
仕事は店内の掃除からはじまり、カフェやランチの準備、備品類の準備、それが終わったらカヤックの搬出作業と続く。
ちなみにダブル艇の重量は約30kg。これをは艇庫から出し、カートに乗せて浜まで往復。夏場はこの時点で汗だくだに・・・。ただし、ウォーミングアップ&足腰を鍛えるトレーニングも兼ねているため欠かせない日課。ついでにカヤックのペダルやラダーなどの可動部の点検を行い準備完了。ここまでで30~60分。
送迎が入ってる場合は逆算して作業を行い、お迎えに。
朝は時間との勝負。
8:30 受付
毎年遊びに来てくれるリピーターのお客様は「いらっしゃい」ではなく「おかえり」と挨拶するのが恒例になっている。島を「自分のふるさと」のように感じてくれるお客様がいることがなによりの励み。ガイドを辞められない理由がここにある・・・。「観光」とは尽きるところ「感幸」である。
お客様が来店されたら元気に挨拶。受付業務は注意事項や保険等の説明、体調チェックなどを行い、用紙に必要事項を記入して頂く。精算を終えたら着替え&準備のご案内。平日はのんびりしているが、シーズン中はごった返す。
また、お客様は女子旅グループ、仕事仲間、カップル、夫婦、ファミリーなど様々であるが、複数のグループが混在する場合で、なおかつお客様のタイプや雰囲気が異なる場合は、出発前にチーム編成を変える場合もある。いずれも場の空気を読み、経験と直感で編成を行うが、細かな配慮がツアーの良し悪しを決めるだけに、出発前は非常に神経を使う場面である。
※定員はガイド1名に対し通常は6名以下としているが、定員を超える場合は、2グループ(ガイド別)に分ける。あるいはガイド2名体制で対応することもある。
9:00 ツアー開始
準備完了。はいチーズ!
受付と着替え終わったら外へ出てライフジャケットなどの装備類を装着。どこまでの装備を装着するかは天候次第となるが、天候の変化に対応できる配慮が必要だ。
準備が調ったら記念撮影を行いツアー開始。ここからガイドはカメラマンにもなる。写真はツアー後に「WEBアルバム」として配信している「おまけサービス」であるが、写真を楽しみにしているお客様も多いので手は抜けない。
ちなみに半日ツアーでの撮影枚数は平均250ショットほど。自然な表情や臨場感を出すためには、戦場カメラマン、ロバート・キャパのごとく、望遠を使わず、開放側で接近して撮るのが基本。ただし、写真は被写体との「間」であり「心の距離感」であるから、そこを縮めないことにはなかなかいい写真が撮れない。カメラワークを磨くことも仕事のうち。
ツアーは「楽しんで頂くこと」が第一の目的なので、スクールと異なり、教える作業は簡略化している。
さて、浜まで移動したらカヤックの割り当てを行いインストラクション(教示)開始。ここからガイドモードON!
まずは自己紹介に始まり、ツアーの流れや天気状況などの説明、次いでカヤックの乗り方や操作方法、漕ぎ方などをレクチャー、最後に柔軟体操をして出艇となる。
各セクションを通じて笑いを引き出したり、場の空気を柔らかくすることも重要な作業。緊張を解き、リラックスした状況や空気をつくり出すことは安全性にも繋がる重要な要素であるからだ。
9:30 離陸
カヤックは武道と同じ精神性が求められるスポーツでもある。武道の「武」は「戈」(ほこ)を「止める」と書くが、本来は「争い事を止める」つまりは「平和を守るための道」という意味である。一方、アウトドアもまたベトナム戦争を発端とする平和思想を尊ぶカウンターカルチャーとして始まっている。両者には親和性がある。
離陸した直後は海上レッスンになることが多い。全員がスイスイ漕げれば良いが、実際は、漕げる人、漕げない人、コントロール不能に陥り反対方向に行く人、周りを見ないで突っ走る人、などなどバラバラだ・・・。これらの人を時に勇気づけ、力を引き出し、さりげなくまとめ上げながら目的地まで楽しく安全に誘導できるかがガイドの腕の見せどころである。
「群を一つにまとめ上げる」という点においては牛飼いや羊飼いに似ている。そう、ガイドは海のカウボーイである・・・。
さて、漕げない人には共通点がある。それは運動神経が鈍いとか体力が無い、といった肉体的な問題ではなく精神的なもの。つまり、海に対する「恐怖心」である。人間は「怖い」と思った瞬間無意識に筋肉が硬くなる。したがってリラックスした状態を創り出し、緊張を解くことがここでの仕事である。
総じて、自然の中では「闘う精神力」ではなく「受け入れる精神力」が重要だと言われる。柔道で例えるなら「受身」力を抜いた状態が最も強いリスクを軽減する方法論である。
ガイディングとは、言い換えればメンタルマネージメントの世界でもある。
海に学び、お客様に学ぶ。ガイドにとって海は仕事場であり道場でもある。
10:30 上陸
海は人を笑顔にする力がある。ベースツアーでは海そのもの心地よさを感じてもらうことに重点を置いている。。海を身近な存在として感じて頂くことがテーマ。
ベースツアーでは50分前後のパドリングを経て浜に上陸。上陸後はフリータイムとなるが、ガイドはバーナーに火を付け、カフェの準備をしながら、時々の状況に応じた遊びを考える。
遊びの内容は時期や潮の状況、お客様のタイプや人数などにより様々であるが、誰かが楽しそうなことをはじめると、雰囲気につられて遊びがはじまる。したがって、ガイドは真っ先に海に飛び込み遊びのスイッチを入れるのも仕事。夏場はテンション高めな遊びが中心となるが、寒い時は体を動かすゲームを企画したり、時にはなにもせず浜辺でまったり過ごすこともある。
その他、磯場を観察したり、潜ってみたり、捕ってみたり、食べてみたり。おもしろい写真を撮ってみたり。いずれにせよ、遊びや会話の引き出しは多いほどベター。上陸後はガイドのパーソナリティーや経験値が最も問われる場面でもある。
12:00 着陸 ツアー終了
海に出る前と、海から帰って来た後では、ゲストの表情はまったく違う。あらゆる状況を楽しみ最高の笑顔をメイキングすることがガイドの仕事だ。
ツアーも中盤を過ぎると体が海になじみ自然体となる。そして全身の力が抜けた後半戦のパドリングにおいては、視界が広がりグングンとスピードも増す。こうなると漕ぐことそのものが楽しくなってくる。で、なんとなくコツが掴めてきたかな。というところでゴールとなる。ゴール直前、 「帰りたくなーい!」なんて言葉が飛び出したらツアーはほぼ成功だ。
ツアー終了後はシャワー&着替えをして解散&お見送り。あるいは所定の場所まで送迎して終了となる。ここで一件落着。午後のツアーがある時は、時間までに全ての準備を整えて待機となるが、シーズン中は幕間の舞台裏のごとく忙しい時もある。
参考までに、海から上がった後はやけに腹が減る。これは全身を使った有酸素運動により脂肪や糖質が燃焼するからであるが、それ以上に海上では普段使用しない筋肉や神経を使うことにより脳がただならぬエネルギーを消費しているからである。
しかし、不思議なことにカヤックをした後は疲労感を感じない。それよりはむしろ、達成感や爽快感のようなスッキリとした感覚が残る。これは達成感を感じると快楽物質であるドーパミンが分泌されて疲労感をマスキングするためである。いずれにせよ海という非日常空間を旅することは、脳を活性化させると同時に体の免疫機能を高める。リピーターのお客様は多忙を極める方が多いが、こうした部分が人を海へと向かわせる科学的な根拠であり、カヤッキングの奥深いツボである。
13:30 午後の部 開始
気温が上昇する夏の午後は海陸風の影響により風が強くなる傾向にある。風が吹くとボートコントロールは難しくなるが、その分ゴールした時の達成感は増す。
午後のツアーは13:30受付開始。サンセットツアーは午後ツアーから1時間、または2時間遅れての出発となる。
一人のガイドが一日に担当するツアーは午前と午後、あるいは午前とサンセットの2本。もちろん午前中、または午後からの1本だけの日もあるし、海が時化て中止となる場合もある。
ちなみにシーズン中は午前ツアーが最も混み合う。ファミリーツアーを午前推奨にしていることが要因であるが、理由は午前中の方が海が比較的安定しているためだ。
対して気温の上がる午後(特に真夏日)は「海陸風」の影響により風が強まる傾向にある。しかし、ある程度風があった方がカヤッキングそのもののおもしろさは増す。加えて、後のツアーが無い午後のツアーは、気分次第、お客様次第でツアー時間を延長することも度々だ。業務的な仕事はしない。一つ一つが完全手作りの旅。それが僕たちが目指すツアーのカタチだ。
16:30 午後の部 終了 後片付け
遊んだ後はジェットホースで水洗い。
遊んだ後の道具は砂&潮まみれ。というわけで、遊んだ後はもれなく後片付けが付いてくる。まずは「潮抜き」のため道具は全て水で丸洗い。(潮と紫外線は素材を劣化させるため、毎回水洗いすることにしている)
加えて僕たちの使用している艇はラダーを装備しているものが多いが、可動部は砂が噛んだり、潮が結晶化して動きがシブくなるため、毎回点検し、常にベストなコンディションを保っている。目に見ない小さい仕事の積み重ねが安全をキープする第一歩。
あせるな。おこるな。いばるな。くさるな。おこたるな。
漁師に教えてもらった海で事故を起こさないための教訓だ。
事務作業と明日の準備
繁忙期のスケジュール表。最近はWEBカレンダーも併用しているが、現場は未だアナログ管理。年中こんなスケジュールだと嬉しいが、ハイシーズンは正味100日。残り265日はオフシーズン。集中してやるしかない。
後片付けが終わっても仕事はまだ終わらない。次は事務所に戻ってデスクワークが待っている。
※受付業務やスケジューリング作業などのカウンター業務は、簡単そうに見えて、実は最も経験と勘を必要とする難易度の高い仕事である。したがって、ここはチーフガイドが担当している。以下は参考まで
予約メールの返信作業や受付業務(スケジューリング)は一件一件、集中力と根気のいる作業である。中でもシーズン中は予約がブッキングすることも少なくない。そうなると日程の調整のためメールは二度三度往復することも度々。その間に新しい予約が入って来たり、送迎をやりくりしたりなど、繁忙期のスケジューリングは正に針の穴に糸を通すような緻密な作業となる。
いっそのこと繁忙期だけでも事務員を雇いたいとも思うが、メールは相手が見えないだけに現場を熟知しているガイドでなければ細かい対応ができない。加えて、世代や参加条件の異なる複数のお客様を、どのように組み合わせてグループをつくるか。といったスケジューリングのセンスによって現場の雰囲気が大きく変わるから責任重大。例えるなら、試合運びを采配する監督業に近い仕事だ。
その他、空いた時間は、写真の発送作業やホームページの更新作業などもある。外の現場仕事だけに専念できれば楽ちんであるが、デスクワークも務む含めてのツアー業務である。
以上が一日の大まかな作業工程であるが、実際の労働力を考えるとガイド料の内訳は実質「準備と後片付け料」であり、ツアーそのものは「おまけサービス」といったところ。ガイド業は安全管理を主体とする裏方仕事である。