ナビゲーションと航海術
ナビゲーションとは 「現在自分はどこにいて、目的地までどのルートを辿り、どのくらいの時間で到着できるのか」 を読む技術(航法)のこと。日本語にすると広義では「航海術」のことを指しますが、航海術とは船乗りとしての心構えや道徳観の根幹を司る「シーマンシップ」や、航法としての「ナビゲーション」、気象の変動などを読み取る「気象学」や「観天望気」などを含めた総称であり、不確定な海上で事故を起こさないための「心技体」が一つになった総合技術のことです。
また、ナビゲーションには海図やコンパス、GPSなどの計器類を使う科学的な「西洋航海術」と、人間の持つ肉体的かつ芸術的な感覚を駆使して航海を行う「伝統航海術」とがあります。シーカヤックにおける航海においては(以下カヌー航海術)は、両方の航法を用いますが、主たる技術は、五感や六感を駆使して挑む伝統航海術に近いものとなります。

カヌー航海術 ~ カヤック・ナビゲーションについて
一見すると障害物のない海上はどこを通っても自由なようにも思えるし、目的地までまっすぐ行けそうな気もします。が、実際の航海においては、まっすぐ行けない場合、あるいはあえてまっすぐ行かないことがほとんどです。海上には目に見えない様々な障害があるからです。
一つは目は海上交通におけるルールや条例などの「倫理的な障害」です。海上には漁船や客船、輸送船や作業船など、実に様々な船舶が往来していますが、そこには決められた航路があったり、船舶以外に養殖網や定置網などもあります。つまり、法律上の制約はなくても倫理上の制約があるのです。加えて、他の船舶から見た場合、小さなカヤックは波や光りの反射によって掻き消されることが多く、遠くからはほとんど見えません。従って「他からは見えていない」ということを前提にした、他者に迷惑をかけない常識的なコース取りが求められます。また、小さなカヤックといえども、複数の船団ともなれば前例と最後尾との距離は数百メートルになることもあります。この場合、前後100メートルのカヤック船団も、100メートルの大型船も障害物としては同じ存在だということです。つまりカヤックといえども「一つの船舶」である以上は公共のルールに則り「然るべき道」を辿らなければならないということです。
そしてもう一つの障害は、「風と潮による物理的な障害」です。とりわけカヤックは風と潮の影響をもろに受けますが、例えば北へ真っ直ぐ北上しようと思っても、西風が吹いていたら東へ流されてしまいます。時と場所によっては潮流に流されることもあります。問題は、風は波(波浪)という姿になって現れるのでわかりやすいですが、潮流は海全体の大きな流れであるため非常に見えずらく、気が付かないうちに流されてしまうこともあります。従って、風と潮流が与える影響を計算し、流されることを前提にした詳細なルートプランニングが必要になります。と同時に、万一の気象変化に対応するためのエスケープルート(予備ルートや避難ルート)も考えておく必要があります。
総じて、航海(ナビゲーション)とは、森羅万象から少し先の未来を多次元的に読み取り、最小リスクかつ最大効率が期待できるルートを時系列に落とし込みながら前に進む。という芸術的とも言える作業。例えるなら、海という無地のキャンバスに、然るべき一本の線(ビジョン)を描くような作業であり、実際の航海はあたまの中で描いた線を検証しながらトレースしていく作業のようなもの。
【補足】海はどこを通ってもいいのか
一般の人に聞かれる質問として、「海はどこを通ってもいいのか」というのがあります。答えはYES。公共物(国民に開かれた場所)である海面を規制する法律はありません。加えて、浜においても出入りを規制する法律はありません。当然ながら浜を所有する権利も認められていません。つまり、法律上日本にはプライベートビーチは存在しないということです。従って、どこを通っても自由ということになります。しかしながら、法律はなくても、そこには目に見えない境界線があり、ルールやマナーがあります。
例えば、一般的に海面及び干満線の内側の部分は公共物(国のもの)となりますが、そこから上は自治体が所有していたり、個人所有であったりします。これは無人島であってもしかり。海と浜は公共物ですが、島自体は誰かの所有(敷地)であることがほとんど。知らないで遊んでいるうちに不法侵入なんてことにもなりかねません。従って海で遊ぶ場合はこれらを理解した上での常識的な行動が求められます。
また、勘違いしやすいものに「漁業権」がありますが、これは資源に関する権利であって「海面」を制限する法律ではありません。従って、法律上はどこを通ってもいいのですが、前述した通りそこには倫理的な制約があったり、漁師には「おらの海」という意識もあります。よって、網を設置している場所などは、絶対に避けなければなりません。
以上、海はあくまでみんなのもの。ゆえに自己本位な行動は許されません。海に隣接する地域の人も含めて、人には迷惑をかけない。嫌な思いをさせない。誰かに出会ったら必ず挨拶をする(無視しない)など、人としての常識はもちろんのこと、海や浜を使わせていただく。上陸させていただく。といった謙虚さや感謝の気持ち(シーマンシップ)がなにより大切な心構えとなります。
日本で最も多くの船が行き交う瀬戸内海は船のデパートだ。下は2馬力の小型ボートからはじまり、ヨット、漁船、旅客船、作業船に貨物船、果ては軍艦に潜水艦まで多様な船舶と出会う。各々が海のルールに則って運航している。