NPO(法人)の基礎知識

NPO法人(特定非営利活動法人)の基本概念や株式会社との違いなどを解説しています。

5. NPOのはじまり ~ アメリカ編

ベトナム戦争とレーガノミクス

NPO発祥の地とされるアメリカでNPOが急速に発展しはじめたのは1970年代。時のレーガン政権時代からです。当時のアメリカはベトナム戦争後の慢性的な不況と莫大な軍事支出とで借金が膨れ上がり、国の財政を圧迫していました。そこで政府は借金を減らすため 「大きな政府」 から 「小さな政府」 への方向転換を標榜し、「民間に出来ることは民間に!」 のごとく 「小さな政府」 を実現させるための抜本的な財政改革案を打ち出しました。

構造改革の目玉の一つは、失業者の増加などで膨れあがっていた社会保障費などの福祉予算を非国防支出として歳出削減し、歳出配分を軍事支出に転換し強いアメリカを復活させる(レーガノミクス)というものでした。つまり社会保障費の全面カットです。(英国サッチャー政権も 「小さな政府論」 の中で福祉予算を同じようにカットした)ところが、この改革は大きな社会的混乱を引き起こしました。様々な行政サービスがカットされたことで社会不安が増大したのです。富裕層を優遇し、中低所得層を切り捨てたとの厳しい批評もありました。かといって民間企業も手をこまねく事業領域(採算が合わない)がそこにあり、事態は一層深刻な状況となります。

自分たちの街は自分たちでつくる

そこに登場してきたのがNPOという新しい社会の枠組みでした。経営的に難しい事業であっても地域には無くてはならない事業があります。そこを政府は民間の活力(NPO)に期待すると同時に、様々な規制緩和策を打ち出し民間の参入を支援していきました。厳しい痛みを伴なう改革でしたが、政府にはもう頼れない。自分たちの地域は自分たちの手でつくらなければならないという精神、「ソーシャルキャピタル」(地域力とも訳される)の概念が生まれ、社会に浸透していきました。

また、もう一つの背景として、地域(州)により人種、文化、宗教などが異なるアメリカでは、広大な領土を一つの考え方で統治しようとすると様々な歪が生まれます。そこで、州単位のミニ政府が構築されていくわけですが、こうした社会情勢の中で 「市民公益」(公益はそこに暮らす住民自らがつくるもの)の意識がテーゼとなり、平行して州単位による認証制度の整備など政府機関の後押しもあり、NPOやNGOを含めた社会企業体は第三の勢力として成長していきます。結果、政府、企業、NPOによる三位一体となった社会構造を構築すると共に、現在NPOによる雇用者数はアメリカ全体の就業人口の3割にまで達しています。しかもそのほとんどがボランティアではなく、有給の専従スタッフが運営しているプロフェッショナルな団体が中心です。学校、病院、図書館、公民館などをはじめ、社会福祉サービスの多くがNPOによって運営されています。

社会を変革する三位一体の仕組みづくり

また、NPOなどの社会企業体が発展するに至る背景には、企業の人事制度(採用基準)が変化したことも強く影響しています。前述した通り、市民公益の考え方や環境問題に対する意識が浸透していく中で、企業は 「社会的責任」 が問われるようになりした。比例して 「社会貢献度」 が企業の価値基準となり、その如何によって業績が大きく左右するようになったのです。要するに、社会貢献をしない企業には良い人材が集まらない。売上も上がらない。といった循環が生まれたことにより、人も企業も社会貢献をすることにウエイトを置くようになりました。こうした時代背景の中、企業は人事における採用基準として 「社会活動の経歴」 を重要視するようになりました。そうなると、社会活動の如何が就職戦線を切る開く切り札とあって、ボランティア活動を含めた社会活動が大きな広がりをもつようになったのです。理念だけではなく、経済の仕組みを構造的に変えることで市民公益を実現させていった例と言えます。